ようやく物件が決まりました!
ふりだしに戻っていた物件探し。やっと終わることができました。
内定していた物件を反故にされて再開していたもの。
その後も毎日足を棒のようにして場所を探し続けました。
街を見る視点が変わる。
物件探しを再び始め、あらためて気づいたのは自分がダカールを眺める視点が変化したということ。
閉まっているシャッターを見れば空いているかどうかをチェック。人の通り道や歩行者からどのように見えるかなどにとても敏感になります。また、小売店を見ては「どこをマネできるだろうか?」なんて一丁前に思ったり。
そういえば学生の時に少しだけかじった写真。始めてカメラを持って街に出た時の感覚は今でもまざまざと覚えています。
慣れないカメラを片手に、少しでも良い被写体がないかと周囲に懸命に目を凝らす。
人の表情、道端の木々、のらつく動物、空の色。これまでは目の前にあっても通り過ぎていたものが急に意味をもって自分の中に飛び込んでいます。
こんなにも周囲に色々なものがあったこと。写真を撮るという、特定の目的を持つことでモノの見え方、街の見え方が変わるというのはとても新鮮な体験でした。
そして、「『レンズ』は、物理的なものに限らない」と気づいたのはルワンダに行った時。
それまで貧困問題を勉強していた時にはいつも「援助の対象」としてあったアフリカ。一方、民間企業でインターンさせてもらった事でアフリカは「お客様」に。その視点で人々の暮らしを捉えなおすとこれまで「貧しさの指標」として見えていたものが、「生活の知恵」だったり「人々のニーズ」として見えたり、それが含む意味合いが随分と違ったものになりました。
普段の街も。見方を変えると違う姿が。
物件探しを始めて以来、そういった意味で自分が新しい「レンズ」を手にダカールを見るようになった気がします。人の数や属性、店の種類や密集度、道、角、通りに看板。
これまで何げなく見過ごしていたものを注意深く見るようになりました。
余談ですがこうした「レンズ」が人によって違うからこそ、色々な立場でセネガルに関わっている方と話をするのはとても興味深い発見があります。「この人には世界はこう見えてるんだ!」と感じる事がしばしばです。
さて、とはいっても以前に書いた通りダカールの物件探しは中々の激戦状態。
情報提供者のクルチエ達にも連絡を取りつつ、街を歩き回っては空振りの毎日が続きます。
「もう商品は届いてしまっているのに店舗が見つからない。どうしたらいいんだろう・・・」
収穫なく家に帰る1日の終わり。家に帰る度に何度もそう思い、ひとり暗い気分になりました。
毎晩通っていた場所のとなり。
「あれ、そういえばあそこ空いたままだな」
と、「そこ」に気づいたのは、やはり注意深く通りを見るようになっていたからだと思います。
夕食を食べに、あるいは近所のスーパーへの買い物に。毎晩の様に歩くその道に建っているある建物の存在にある日気づきました。
いつもは何げなく通り過ぎていた場所。
長いこと建築途中のままストップしていたその建物。
(セネガルには建築資金が無くなってしまったりして、途中停止のまま亡霊のようにたたずんでいる建物が結構あります)
正直これまでは廃墟に近いような雰囲気で気にも留めなかったのですが、よく見なおしてみると一番の大通りやバス乗り場に通じる道。人の往来もかなりあります。
「あれ?ここ、いけるんじゃないか?」
これまで、この地区に詳しいクルチエ達には散々空き物件の紹介を依頼していました。その彼らから紹介を受けていないということはつまり・・・まだ彼らの情報網にも載っていない物件という事です。
そう思ったら即吉日。建物のオーナーの代理人をしているという人物の連絡先を探り当て、すぐにアポをとって訪問。話を聞いてみました。
直感を信じてすぐに代理人もとへ。
それは本当にちょうど良いタイミングだったようです。その代理人の方がオーナーに代わって建物を改修し、貸し出すための募集を始めようとしていたところでした。
いそげ!急げ!
もうそれからはとにかく時間との勝負。パートナーのSeydinaを連れてきて借りることに合意し、すぐに条件交渉を開始。
公開前につかめた物件情報ですが、ほどなくしてクルチエにも情報が伝わりました。続々と代理人へ問合せが。我々と話している間にも彼の携帯がガンガンなります。
代理人の時間があれば空いていれば週末でも夜でも構わず会いに。
とはいえ焦燥に駆られて誤った決断をしてしまうのも怖い。交渉と並行して物件探しに詳しい知人の方に見てもらい相談するといったこともしました。
(2人でやっているとはいえ、当事者すぎてしまうとやっぱり物事が見えなくなるもの。こうした時に相談できる相手がいるのはすごく心強いと改めて感じます。)
オーナーは海外に住んでいます。代理人を介して交渉をしているとどうしても時間がかかってしまいます。
正直この辺りの期間は「他に取られてしまうのではないか」と不安で仕方ありませんでした。悪い夢を見て早朝に起きてしまう、ということもしばしば。
そのため、もう最後の方は「攻めに攻めろ!」といった感じ。電話をかければ「またお前か」と代理人に呆れられるさまでした。
ようやくサイン!
よその影におびえながら粘りに粘り、しつこさにしつこさを重ねた末に条件合意に達したのは数日後。
物件は主要幹線道路へと向かう道沿い。地元の人がよく利用する場所に。
振り返ってよかったなぁ、と思うのはやはりパートナーのSeydinaの存在だったと思います。
見つけた張本人の私が焦燥に駆られてなんでもOKと言ってしまいそうになっているのを抑え、値段交渉や各種の条件チェックを冷静な彼が対応してくれました。
現地のウォロフ語を喋ることで代理人の態度はグッと気さくなものになりましたし、フランス語での契約書修正もお手の物。
(読むことはできても、条文をササっと作るのは私のレベルではやっぱりまだ困難)
片方が突破口を開いて、もう片方が冷静にさばきまとめる。とても良い連携ができたと思います。
もちろん、前回の反省があるので油断はできません。合意の翌日に押しかけるようにしてオーナーの代理人の家に押しかけ、契約書にサインをしてもらいました。
オーナーの代理人の家が要塞の様で大きくてびっくり。気分はまさにラストダンジョン。
ストンと何かが落ち、スッと全身の力が抜けていく。
契約書に書かれたサインを見たとき、ここ1か月の疲労と緊張が一気に流れ落ちていくのを感じました。ようやく、物件が決まった瞬間でした。
やっとサインができた契約書。
そしてまた一歩、少しだけ前に進むことができました。
休む間もなく続けて開店に向けての準備に入っています。