ダカールで商売を。

日本の良さは西アフリカへ伝わるか?セネガルにて小売店を経営。つくり手と買い手をつなぎます。

なぜセネガルを選んだのか?(渡航後)

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前回の記事では渡航前にセネガルを選んだ理由を書きました。

今回は実際に西アフリカに来たあと、なぜセネガルを選んだか?を書こうかとおもいます。

魅力溢れるコートジボワール。それでもセネガルへ。

「ビジネスをやるならなぜコートジボワールではないのか?」

という質問をこちらに移り住んでから何回かされたことがあります。

「特にセネガルに強い思い入れがないなら、仏語圏西アフリカの中でもビジネスをするならコートジボワールがいいのではないか。経済規模が違う。セネガル何かをやるにはのんびりしすぎていると思える。」

というその方たちの意見はとてもよくわかります。

事実、仏語圏西アフリカの中でもコートジボワールの経済規模は群を抜いているんですね。

 

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世界の名目GDP 国別ランキング統計・推移(IMF) - Global Note

こうしたデータも頭にあったため、基本的にはセネガルを念頭にこちらにきたものの、コートジボワールを見に行くことにしました。

訪問した様子は今後改めて記事にして書こうかと思っていますが、実際に訪れてみると、これから爆発的に消費が伸びそうだということは強く感じました。

首都アビジャン最大の市場であるアドジャメ市場を訪れたときに見たおびただしい数の店舗とそれを上回る人、人、人の光景はいまでも覚えています。

人々はものを欲しがっていました。コートジボワールの暑さも相まって買い物に対する彼らの「熱狂」が真っ赤なイメージとなって目に見えるようでした。

なので、小売をやるならばこれほど適した環境はないのかもしれません。

それでもセネガルでやろうと思ったのは主に下記の2点によります。

「暴力のにおい」を感じたコートジボワール

「現在このエリアは許可証を持っていない外国人は通行禁止だ。本来ならば連行するところだが、今回は特別に見逃してやる。代わりに○○万フランの罰金を払うように。」

首都アビジャンの一番の中心地であるプラトー(Plateau)を歩いていた時に突然警察官の一団からかけられたのはそんなセリフでした。

パスポートを取り上げられた自分はアビジャンについたばかり。そのようなお達しが本当なのかどうかもわかりません。

結果的には「日本大使館に連絡させろ」「いっそのこと連行しろ!」とゴネた結果、"罰金"を値切ることに成功しその場を抜け出しましたが、嫌な思いがのこります。
日本大使館に確認すると、もちろんそんな決まりはありませんでした。)

あるいは別の日に、ケータイ電話をスラれたため盗難証明書をもらおうと警察署に。そこでも「現場を見に行くから"出張費"を払え」「証明書の発行には○○万フランかかる」という嵐。法外な要求額と交渉するだけで1日を費やしたこともありました。

マリへ向かう長距離バスに乗ると、ところどころに検問があります。いちいち止められ全員が調べられるということの連続。運転手や大きな荷物を載せている乗客に何かを話しかけ、お札を受け取っていく憲兵や警察官たち。

もちろんアフリカでは賄賂は当たり前となっている国は多いでしょう。

旅行者であれば一時の「やれやれ」で済んだかもしれません。

ただ、そこに定住し日々彼らと付き合うことを想像したらどうか。

実際にビジネスをやるために、法人設立など多くの手続きを行っていかなければいけないとしたらどうか・・・。

これが大きな会社の支社、駐在事務所などであれば話は別かもしれません。言葉と現地慣習を完全に理解する現地人スタッフも雇うことができ、予算もある程度ある彼ら企業などであれば多少の嫌がらせには目をつむることができるかもしれません。
現にコートジボワールにはセネガルよりも多くの日系企業の姿がありますし。
(もしかしたらこれらの方々も頭を悩まされているのかもしれませんが)

でも、これが自分のような個人ですとなかなか致命的な問題になってきます。お金も時間にも余裕がないなかで、警察などといった「権力」をバックにした相手とやりとりをしていく気はどうしてもしませんでした。

そして、これらのやりとりをする彼らからはどうにも腐敗だけではなく、暴力のにおいが確実にしました。

「なにかやりかねないな」という感じ。

日本やセネガルのようは市民の守護者たる「おまわりさん」という雰囲気はそこにはありません。

ご存じの方も多いように、2000年頃から騒乱に見舞われたコートジボワールは2010年選挙後の混乱を経て現在に至ります。表面上大きな争いのない状態が続いていますが15年10月には大統領選挙を控えています。「今度こそ平和裏に選挙が行われるか?」というのは世界中が注目しているところですし、現地人の方に聞いても「今度はだいじょうぶ」との意見も多く聞かれました。

ですがもし選挙を機になにか騒動がおこったら?この国の治安機構は信頼できるだろうか?

といえば完全にNoです。自営業者としてこのリスクはとれないと判断しました。

また実際問題としても彼ら治安機関の一部は、先の紛争で武器をとり武装解除に応じた勢力が併合されてその任にあたっています。国内で権力闘争が再発すれば、ニュートラルに法や治安の番人たる仕事をしてきた人々ではない彼らは大本の帰属集団の利益に応じて武器をとるのではないか・・・。

自分自身は同国の事情に精通しているわけではありません。上記のことも偶然出会ってまった個人的な体験と、聞きかじった知識が符号しただけかもしれません。

でも私は熱帯のこの国にいまだ潜む、濃密な暴力のうしろ姿を垣間見てしまった気がしたのです。

信頼のおける現地人パートナーがセネガルで見つかったこと

くわえて、コートジボワールに行く前後には、セネガルで一緒に事業をやれる信頼できるパートナーが見つかっていました。

かねてから現地人パートナーの存在は自分に必要だと感じていました。

同年代でもあり、率直に話し合うことができ、そして事業資金をきちんと出す意思のある人間に出会えたのも何かの縁か。

西アフリカをめぐってきて再びテランガ(おもてなし)の存在で迎えられた自分は、彼の存在もありセネガルでまずはやってみようと思いました。

こう書いてくると、けっきょく感覚と勘に頼って判断を下してきたことがよくわかりますね。

一応現地に行く前には統計やデータ関係には目を通していくようにしていますが、最後はこういった直観に任せて決めてもいいのではないか、と最近は思っています。

自分の人生とリスクですから。失敗しても後から決定時の根拠や責任を誰かから問いただされるようなこともないので。

その他の国とそれでも心残りなこと

ちなみにこれまで西アフリカはガンビアとマリも訪れていますが、以下の理由もあり選択しからは外しました。

  • ガンビア:国土・経済規模ともに小さすぎる。もと英国植民地のためインド人の存在も目立つ。あえて選ぶ理由はなかった。
  • マリ:消費意欲は旺盛。だが北部を中心とした紛争にはいまだ今後の情勢が見えず。治安面でやはり心配。内陸国で沿岸国に輸入を左右される部分もある。

 

そんなわけでセネガルを選び、これまでのところ治安機関や行政に大きな不信感を感じたことはありません。おまわりさんは今日もとても親切です。

が、心にひっかかるものがないわけでは決してありません。

もともと自分がアフリカでチャレンジしようとした背景には
「アフリカの経済発展にビジネスを通じて貢献しよう。そして経済発展が紛争の低減につながる」
というかたちで、学生時代に問題意識を持っていた紛争を減らしたいという想いが根底にはあるわけです。

でも、少なくともこれまでのセネガルはアフリカでも例外的に平和を享受する国なわけです。

当初の志を貫徹するのであれば、やはり一時的な平和にあるものの、いまだ薄氷の上にいるコートジボワールでやるべきだったのかもしれない、という想いは今もまだ自分の中にあります。

自分がセネガルで商売をする零細商人にも関わらず、そのスコープをセネガルのみならず「西アフリカ」としているのはそんな思いもあるからかもしれません。

しかし、以前から言われてきて、今回自分自身も身をもって感じたことですが、
貧困が争いの原因となる一方、争いが貧困を助長する(投資のリスクを高めるため)という「鶏が先か卵が先か」とのジレンマ、「貧困の罠」はどうしたら抜け出せるのか、とても悩ましいところではないでしょうか。