経験とランキングで見るセネガルの賄賂事情
途上国で商売をするにあたって気になることの1つは「賄賂」。
今回はこれまで私が見聞きした範囲+世界ランキングでセネガルの賄賂事情を書いてみます。
賄賂のレベル分けをしてみる。
まず、「賄賂」と一言にいっても国や地域によって異なるレベルがあるように思います。私なりに段階分けしてみます。
レベル1:「皆無」
賄賂が世の中にほぼ存在しない。あると大事件になるレベルの社会。「あるべき姿」と言えると思います。
レベル2:「ファストパス」
日常的にもビジネス的にも無しでも済ませられるが、払うと便宜が受けられる。
レベル3:「障害除去費」
日常暮らしている分には払うことはほぼないが、許認可を受ける際などビジネスをする上で一定の費用を払わないと許可が下りないなど大幅な不都合をうける、あるいは進まない。
レベル4:「日常経費」
例えば歩いているだけで、治安機関に何かしらの理由をつけられお金を要求されるような場合など、賄賂の要求が日常生活にまでおよび何かしら払わされる場合。
日常生活では安心。「ファストパス」としての賄賂。
さて、上記の区分けの中でセネガルの現状はレベル2の「ファストパス」として賄賂が存在しているように見えます。
まず、日々の生活を送る中でお金を要求されることはまずありません。
警察官にふいに止められ"イチャモン"をつけられることもなければ、役所の窓口に行って必要な申請をする際に正規外の"手数料"を求められることはありません。
そういう点ではとても安心できる国だと思います。
一方で、賄賂の存在が全くないかといえばそれは嘘になります。
たとえば私が人から聞いた例をあげますと
- ある業種の開業許可を得するためには通常数か月かかるが、所定の"心づけ"を支払うとその期間が短縮され早く開業できる。
- 輸出入に関わる審査で"追加費用"を支払うと優先的な処理、あるいは優遇を受けられる。
といったものがあります。
いずれも許認可が関係しており、通常の手続きのルートで正規の料金を支払えば許認可自体は受けられるものです。
が、そうしたお金を渡すことで、迅速な処理をしてもらえるなどの「メリット」を享受できるという、「別ルート」として賄賂が存在しているようです。
これはさながら「長時間並べば乗れないことはないが、追加の料金を払うことで優先的に搭乗することができる」という、テーマパークでよくみかける「ファストパス」に近い構図ではないでしょうか?
世界ランキングでは大健闘!イタリアと同じレベル!
さて、主観的なできごとだけではなく、客観的な国際評価からも少しみてみたいと思います。
参考にしたのはトランスペアレンシーインターナショナルが毎年発表している「腐敗認識指数」(CORRUPTION PERCEPTIONS INDEX)です。
以下のサイトにわかりやすいランキングが掲載されています。
腐敗認識指数 国別ランキング・推移 - Global Note
上記の表から気になる国名とランキングを抜き出してみます。
順位 | 国名 | スコア |
---|---|---|
15位 | 日本 | 7.6 |
55位 | ルワンダ | 4.9 |
61位 | ガーナ | 4.8 |
67位 | 南アフリカ | 4.4 |
69位 | セネガル、イタリア、ブラジル他 | 4.3 |
80位 | ベナン、イタリア、ブラジル他 | 3.9 |
85位 | タイ、インド、ブルキナファソ | 3.8 |
110位 | エチオピア、マラウィ | 3.3 |
115位 | コートジボワール、マリ | 3.2 |
119位 | タンザニア | 3.1 |
126位 | ガンビア | 2.9 |
136位 | ナイジェリア | 2.7 |
142位 | ウガンダ | 2.6 |
145位 | ギニア、ケニア、 | 2.5 |
161位 | ギニアビサウ | 1.9 |
コアは0ptsから10ptsで評価され点数が高い方が汚職が少ない。
じつはこのランキング、今回の記事を書くにあたって初めてみたのですが、す、すごいじゃないかセネガル!思ったより大健闘しています。
先進国であるイタリア、注目度の高いブラジル・タイ・インドらと同等以上のスコア。
また西アフリカ仏語圏ではナンバーワンです。
「汚職が少ない」という、個人としての実感がランキングにもきちんと表れているように見えます。
トランスペアレンシーインターナショナルによる地域別分析においてもサブサハラアフリカにおける汚職は根強く、まだまだひどい状況と評される中でかなり頑張っているといえるでしょう。
「汚職」は国家規模の戦い。社会を表す重要な指標。
私がルワンダにいた2009年当時、もしかしたら現在もかもしれませんが汚職の撲滅は「国家規模の戦い」でした。
国土が小さく、非常に管理志向の政権下にあったルワンダにおいてさえ、至る所に看板や標語が並び汚職の撲滅にやっきにやっていた光景が思い出されます。
誰しもお金は欲しいもの。しかもアフリカは大家族制のため多くの人を養う必要があります。
そんな時に自分が何らかの力を持つ立場にいたら・・・。
賄賂文化の少ない日本という国からは想像もできないぐらい、汚職を社会から減らしていくことは難しいことだと思います。
「汚職に対する戦争に参加しよう」と書かれている。2009年のルワンダ。撲滅は容易ではない。
また、重要なのはそれは単にモラルの問題だけでなない、ということ。
よく言われるように、上記のレベル4に該当する国の治安関係者などがお金を要求する背景には給料の低さや遅配があるといわれています。
給料が遅れずに支払われること、それが一定上の水準であること。それはとりもなおさずその背後に政府がきちんと機能していること。徴税をはじめとした税の徴収、財源維持ができていることが必要となります。
そういった意味では汚職の度合いはその社会が各方面にわたりきちんと機能していることを表す重要なパラメーターともいえるかもしれません。
経済成長率だけでは不十分かも?
さて、上記のランキングで注目すべき別の点は、近年日本企業からの注目度の高い東アフリカ勢(ケニア、ウガンダ、エチオピア、タンザニア)、そして西アフリカの雄として名高いコートジボワールやナイジェリアがセネガルよりもランキング下位にいることです。
「社会の機能度」として汚職の度合いがあるとすると、その機能度合いが低いにも関わらず上記の国々が注目を浴びるのは「やっぱり経済成長率ばかりに目が奪われがちになっているのではないか?」ということを感じます。
私はいま、セネガルで商売にチャレンジしていてある意味ではとても楽です。
許認可を申請しに行っても変な要求をされることはありませんし、色々なところを回る中で警察官に止められ金銭を求められることはありません。*1
暴力と逮捕権を握っている警察がきちんと機能していないと暮らすだけでも大変。
これが逆だったらと思うと・・・。正直なところ気がめいります。
ただでさえ異国でビジネスをするのは苦労も多い中で、日々お金をせびられていては金銭的な負荷だけではなく、精神的な部分で削られるエネルギーは相当なものでしょう。
そして、当たり前ですがコンプライアンスの面から賄賂を支払うことは決して認められていない行為であるということ。
そうなると、レベル3・4の国では現地の仕組み的には袖の下を通さなきゃ話が進まないが、日本サイドをはじめとした側ではそんなの認めず、、、で現地にいる人は板挟みになってしまうのではないかな、と想像します。(私は経験がないのであくまで想像です。実状を知りたいなと思うところです)
何がいいたいのかといえば、汚職の少ないセネガルはサブサハラアフリカにおける参入先として有力な候補地の一つになり得るのではないか?ということです。
参入先検討の1つの指標で使われるであろう、世界銀行の「ビジネス環境ランキング」には汚職をおもに評価する項目は含まれていない。という点も頭の片隅に入れておきたいところです。*2
要するに、経済成長率や人口増加率、仏語圏であるという事からは見えないビジネス遂行上の利点がここにはあるのではないか、と。
と、いうわけでランキングに驚いたこともあって熱くなってしまいました。
まぁ、結論としてはかなり強引かもしれません・・。
でも、なにせここぞと決めて商売をしようとしている「おらが国の」、ですから。
とにかく何かをするにはとても良い国。ということで。