オマール青年とクルティエのイディ(前編)
ここ2週間ほど続けている物件探し。
探している中で面白いのは沢山の多様な人に会えること。
特に、探す中で知り合った不動産関係の方はセネガル人以外の方が多く、多様なバックグラウンドをのぞく良い機会です。
今回はそんな一日の様子を。
ギニアから来たオマール
「なんか仕事みつかった?」
「いいや、見つからないんだよ」
こんなやりとりをもう何度したことでしょうか。
偶然出会ってから数か月、ときどき顔を合わせてはこんな会話を繰り返してきました。
彼の名はオマール。ギニア人の18歳の青年です。故郷から隣国のダカールに来てお金を稼ぐために暮らしています。
オマール青年。何か月も居候・無職でどうやって暮らしているのかいつも不思議。
はじめはとある展示会で偶然出会った彼。日本人と知り合うのが珍しかったのでしょうか、その後頻繁に連絡がくるようになりときどき会っています。
彼は最初、飲み水のパックを売って歩いていたそうなのですが、仕入れるための資本が無くなり、かといって職も見つからずダカール内のギニア人の家を転々としています。
はじめて彼が居候している家に遊びに行った時、そこには彼の友人である同年代のギニア人がもう一人いました。しかし、その友人も所持金が底を尽き故郷の国に帰らざるを得なくなってしまったようです。
「ぼくも、このまま職が見つからなければギニアに帰らなきゃいけない・・・」
「でも故郷に帰れば親だっているし?実家だってあるんでしょ?少なくとも食うには困らなくなるからいいんじゃない?」
「それは嫌だよ。ギニアに帰ったって仕事なんてありはしないんだ。」
「(今だって職がないじゃん)」
時々会うたびにこんなやりとりをくりかえしています。
彼との友人のような関係が続いているのは、それだけ困っていても彼がお金をこちらにねだってこないことにあります。
もちろん、彼としては金銭以外の助けは求めています。自分としてもお金を直接渡すことはできないが、何か彼のためにできないかと試行錯誤してきました。
が、なかなか簡単ではありません。
新しい提案
「そうだ!オマール。不動産屋のマネごとをしてみたらどう?僕はいま物件を探していて、ちょうどこれからもそのうちの1人と会う予定なんだ。彼の仕事ぶりを見て、良い場所の候補が見つかればコミッションを支払うよ」
そう提案したのにはこちらの不動産特有の背景があります。
詳しくは改めて書こうと思いますが、セネガルでは不動産屋(Agence immobilier)の他にクルティエ(Curtier:ブローカー)と呼ばれる人々がいます。空き物件の情報を保持しており、それを紹介することで手数料を得ている人たちです。
その日は不動産屋から紹介されたそんなクルティエの1人と待ち合わせていました。
シエラレオネから来たイディ
「あなたが物件探してる日本人?」
英語で話しかけられた先に立っていたのは小柄な中年男性。
仏語圏のこの国で英語で話しかけられるのはすこし珍しいこと。ちょっと驚きました。
「そうですが、あなたは・・・?」
「ここら辺に詳しいクルティエのイディです。よろしく。」
「ああ、あなたが待ち合わせの。よろしくお願いします。失礼ですがお国はどちらですか?」
「シエラレオネ。知ってますか?ダイヤモンドの国ですよ」
挨拶の握手のために手を差し出しながら、彼は二カっと笑います。
ものすごいマシンガントークのイディ。英語・仏語・ウォロフ語を話す。
物件探しへ
「さっそく見に行こうか?」という言葉を合図にイディとオマールの3人で歩き出します。
3人の真ん中に立って歩きます。左のイディとは英語、右のオマールとはフランス語での会話。なんだか頭が混乱してくる・・・。
一軒目の物件に到着。
パッと見の家賃が安い代わりに店舗の面積がかなり小さくイマイチです。
「どうですか?小さいけど立地はかなりいいですよ。どうです?決めちゃいます?」
かなりの勢いでおしてくるイディ。
「うーん。いやいや、かなり小さいかな」
と、こ言葉にすぐさまイディの目がキラリと光ります。
「そうでしょうそうでしょう。いやいやわかってますよ。だいじょぶ。なにも心配しないで。私もそう思いますよ。この後がすごいんですよ!さっさと次行っちゃいましょう!!」
機関銃のごとく言葉を発しながらすぐさま移動を始めるイディ。セネガル人には見られないとめどなくしゃべる姿に圧倒されながら次に向かい始めました。
英語が連発される様にオマールもポカンとした様子。何がなんだかイマイチわからないまま歩きはじめます。
2軒目の物件。
紹介されたのは裏通りに面した新築の物件。広さはなかなかですが、その分家賃も少しお高くなっています。
「どうですかキレイな場所でしょう!裏通りとはいえ人もかなり通るんですよ!」
「そうですねぇ。確かに新築で広さもそこそこあって・」
「そうでしょう!もうこれは決めちゃいましょう!今から事務所にかえって契約書を作るんでいいですかね?」
ここでも怒涛のプッシュ!
「いやいや待ってください!!いま見たばかりだし」
「うーん、でもなぁ。ここ今朝も中国人の人を紹介したんですよ。いつまで空いてるかなぁ。すぐ埋まっちゃうと思うんだよなぁ・・・」
ここら辺の押しの仕方は日本の不動産屋さんと変わらないんだなぁ、と。
とりあえず写真を撮っていると、向こう側で同行しているビルの管理人に
「ほら、写真撮ってるでしょ?日本人てのはああやっていっつも写真撮るんですよ」
なんて言ってるのが聞こえる。
とりあえず決定は保留して、もう一軒見に行くことに。
ラストの3軒目。
「物件を探す」という行為を目にすること自体が初めてのオマール。興味津々。
見せてもらったのは外国人の多く住むエリアのやはり裏通り。広さも家賃もそこそこのバランスのとれた物件です。
「どうですか?広さ的にもいいし、家賃もお手頃でしょう?これはもうここにするしかないんじゃないですか?しかも新築ですよ!」
もうすっかりお馴染みの"イディ節"を聞きながら見てまわります。
確かに新築でキレイな物件です。ポチポチと店ができた時のイメージをしながら考えていると店の裏手からイディの呼ぶ声が。
「見てくださいよここ!裏が倉庫になってるんですよ!店に置ききれない在庫がすぐ後ろに置いてあったらものすごい便利じゃないですか!?それにここ!倉庫用の部屋とは別に住居もあるんですよ!ここに住めば交通費もいりませんね!お店だけじゃなくて倉庫と部屋も借りちゃいましょうか!?」
特に依頼をしていない倉庫と住居までセットで押しまくられ、もうその強引さには笑うしかありません。
結局この日はどれも決定的な物件ではなかったため、後日あらためて別の物件を紹介してもらうことにしました。
オマールは果たして立派なクルティエになれるのでしょうか?
長くなってしまったので、続きは後編で。