ウェストアフリカチェッカーズ
物件探しをしていると、これまで自分があまり足を向けなかったところに行くことがあります。
そこで出会ったちょっとした光景について。
今日も3軒ほど物件を見てきました。
何人かの不動産のエージェントに声をかけています。彼らが条件に合う物件を見つけると「あったぞー!」と電話がかかってくるので、ノソノソ出かけて見てきます。
今日出かけて見てきた場所もそんなところの一つでした。
懇意にしているエージェントの1人であるおじいちゃん。物件があるエリアまで一緒に行くとおもむろに
「じゃあ、ワシはここで待っているから彼について見に行ってきなさい」
と。そこらをフラついている若い衆に小銭を渡して案内させます。
少し変だなと、と思いつつも若者に連れられて近くの空き物件を見てきます。
行った先はまずまずの内容。満足しながら元の場所に戻ってくると、気づけばおじいちゃんがいません。
辺りを見回し探すと見物人たちに囲まれて真剣な面持ちで座っています。
一角だけ沢山の見物人と異様な熱気が
色々な名前やかたちを持つゲーム
2人で行うボードゲーム。チェッカーはアメリカの呼び名で,イギリスではドラフツdraughts,フランスではジュ・ドゥ・ダームjeu de dames(婦人の遊び)という。ドラフツ(どらふつ)とは - コトバンク盤面はよく見ると10マス×10マスとなっています。チェッカー自体も色々な形があるのですね。形式や地域によりルールが異なると。
以下の通り、彼らがやっているものは「インターナショナルドラフツ」と日本では呼ばれているようです。
日本チェッカー・ ドラフツ協会では、8×8の盤で行うものをチェッカーまたはドラフツ64、10×10の盤で行うものをインターナショナルドラフツと呼び分けています。厳密にはそれぞれドラフツ64、ドラフツ100と呼び、ドラフツ64はさらにドラフツ64(ブラジル式)とドラフ ツ64(ロシア式)とにわかれます。 チェッカーとドラフツ ルール
これぞ西アフリカ式ドラフツ!
- 観客もプレイヤー
- 歌あり挑発あり
- 終盤は口論
1.観客もプレイヤー
なんといってもアフリカの人々はとてもおしゃべりです。そして議論好き。そんな彼らがゲームを眺めながら黙っているはずがありません(笑)
プライヤーの集中なんて全く気にせずに、まわりで「あーすべきだ」「これはまずい」とガンガンしゃべりまくります。
もちろん差し手もそれを無視できるはずもなく、「いや、こうなんだよ!」「それじゃダメじゃないか!」と反論しまくります。
「よくこんな知的で思考を要するゲームをこんなに話しながらできるなぁ」と傍からみていると感じてしまいます。
2.歌あり挑発あり
これもやっぱり歌と踊りが大好きな彼らですから、こうしたゲームの時も鼻歌を欠かしません。特に序盤はお互い余裕がありますから、そのうち差し手同士が声に出して歌いだしてハモったりします。なんか楽しくなります。
一転、ゲームが中盤以降になってくると「言葉」の文化であるアフリカの側面がムクっと頭をもたげてプレイヤー同士でも激しい挑発のしあいとなります。
「早く!どんどん指しなさいよ!」
「あー、いいのかな?そこで」
「勝っちゃうよ?勝っちゃうよ?」
といった感じの言葉が飛び交います。
3.終盤は口論
周囲の騒がしさ、プレイヤー同士の掛け合いもあってただでさえ緊張感漂うゲームは終盤一気にボルテージがあがっていきます。
結果的に、大体は周囲に向かって
「うるせぇよ!!大丈夫だから!勝つから黙ってろ!!」
「そんなに言うならお前がさしてみろ!!」
とキレて、そのうちに口論が始まります。激しい時はもうゲームなんてそっちの気。
本当にアフリカらしらを兼ね備えたドラフツといえるでしょう。賑やかなことったらないです。
でもこうして路上でガヤガヤ騒ぎながらやっているのを見るのはとても楽しいですね。
気づけば西アフリカ大会
さて、熱狂の西アフリカ式ドラフツを見学しているうちにあることに気づきます。
「あれ、誰もウォロフ語を使ってない・・・?」
そう、みなプレイしながらフランス語を使っているのです。セネガルの主要言語であるウォロフ語でなく。そしてフランス語自体も様々な訛りが。
よく見てみると、プレイヤーや見物人の顔つきも普段あまり見慣れない感じです。
観戦しながら周囲の人に国籍を聞いてみると
と西アフリカの色々な国の名前が帰ってきます。
後から聞いた話ですが、私が見物していたところは周辺国からの移民が多く暮らしているエリアだったようです。
ドラフツは、西アフリカの人々の間におけるフランス語とは別の共通言語、コミュニケーション手段となっているようでした。
日本人としては「西アフリカ」と一つに括りがちですが、聞くところによるとやはり出身国が違うと彼らの中でもそこには心理的な壁があるようです。
それでも、こうして出身国も経歴も異なる人が集まりわいわい遊べるドラフツが、同じ地区に住む移民同士が知り合い関係を維持する良いツールになってるのかもしれません。
そもそもドラフツの歴史は中世の南フランスでチェス盤にバックギャモンの駒を並べたところから始まっているようです。*1
そういった意味では、フランスの元植民地であるこれらの国々でドラフツがよくプレイされているのもうなずけます。
フランス語・共通通貨(CFAフラン)・地域共同体等と並んでこうした庶民の遊びも「西アフリカ」が一つの共通性をもつ地域として機能するのを助けているのかもしれません。
幾多の激戦を終えたエージェントのおじいちゃん。ふと観客席にいる私の方をみてはっとした表情をして
「あっ、そういえば今日はあと何軒か紹介する予定だったのにすっかり忘れてた!」
と照れ笑い。気づけばもう夕方。私自身も見ることに夢中になっていました。
仕事を忘れるほどのドラフツ。交流のツールとして自分自身もやってみようかなぁ、と思った一日の終わりでした。